油性キャンバスの剥離
「すべての絵具層を剥がせば、再利用できる」という声もあるが、作品の購入者には、冗談では済まされない問題。
固着力と塗膜強度実験
JIS-S6006の塗膜硬度測定方法(A法)は、充分な測定方法とはいえない。俵屋工房では十種類の重さの鉛棒の先端に、金属製の突起物を埋め込んで測定している。
固着力と塗膜強度実験
塗布実験用の結合材には、天然乾性油・天然樹脂・松脂・合成樹脂・各種混合液・加熱処理・サンブリーチドなど様々な素材と処方油を使用
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一般に市販されているキャンバスは、乾性油+鉛白=非吸収性油性地が高級品とされているようだが、果たしてその根拠はどこにあるのだろうか。本製品の地塗りの結合材は合成樹脂によるエマルジョンだが、絵具層ならびに作品全体のバランス(*1)は、乾性油による油っぽい地塗り製品よりも良く、安心かつ手軽に扱うことが出来る。
*基底材⇔地塗り⇔下地⇔下絵⇔本制作⇔ニスの各層は、それぞれが相性よく、しっかりと結合している必要がある。
油性タイプ(非吸収地)との比較
油性地塗りのキャンバスをそのまま使うときは、遅かれ早かれ絵具層の剥離を覚悟しなければならない。かなり強力なメジュームを使用した実験でも、結果は同様。どうしても使用しなければならない場合は、支持面に何等かの前処理をして、絵具層の剥離から作品を守りたい。
本製品は、合成結合材による中性タイプ(半吸収地)。 「油気の少ない画面の上に油気を」の原則に則った、制作初期のターペンタインだけの使用でも、固着力は絵具の油分だけで充分確保できる。そのほか描画時の絵具の食い付きや経年後の剥離については、伝統的な処方で作られる俵屋工房の手工キャンバスに準ずる。
*「絵具がキャンバスから剥がれた」「作品の移動中に亀裂が入った」といったニュースは今も昔も絶えない。そして、ユーザーはキャンバスメーカーに、メーカーはユーザーに、責任を押し付けることになる。今日では、市販製品を使うのが主流だが、「そもそも支持体は、作者が自分で作るもの」からすると市販製品は、その代用品。したがって使用者は、市販キャンバスを使う前に製品に対する知識をある程度身に付けておく必要がある。
絵具塗布後10年以上の経年調査
俵屋工房では十年以上に渡って、[A−LINEキャンバス]による絵具塗布後の経年変化を追った。設置4年目からは、「寒暖が激しく、夏場は多湿(動物性の黒はすべてカビが発生するレベル)」の過酷な環境下での調査に変更。
主な調査目的は、大量生産された市販品による重度の変質のひとつ[基底材(布)と地塗り層の剥離とカビの発生]。 結果(十年間)は、[A−LINEキャンバス]における絵具の剥離・カビ、その他の変質等での特記事項は皆無であった。
*いかなる支持体にしても、描画時の描き方、移動時〜保存時の取扱い方によって、その作品の「持ち(耐久性)」は、大きく変化する。たとえ本製品が剥離に強いといっても、「完全」とは言い切れない。キャンバスの組成や性質にふさわしい取扱いに留意してほしい。
塗料:アクリル酸エステルエマルジョン、酸化チタン、その他
用途:油絵具、アクリル絵具 ※AD145G、AD0145を除く
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