研究所案内 入学希望の方へ 在学生の方へ 展覧会・講習会 お問合せ 表 紙
 お知らせ 大倉山記念館[研作展]の会期中の会場内の様子をご案内する会場案内ページを掲載しました
        のでご利用ください。
 高橋亮馬の仕事

ルーベンスの技法ビデオ
 
(1994.8〜11)
[収録時間:前編90分・後編210分/資料提供・製作許可:ロンドン ナショナルギャラリー
※2007年7月、DVDになって再販開始。詳しくは上部のバーナーからどうぞ
バルサム・ピアノ(2001.9〜)
[親指のマリア] (2004・春〜2005.12)油彩画技法・国内初の完全手彩色再現模写
長崎歴史博物館所蔵/長崎奉行所ゾーン(長崎県長崎市)  原資:東京国立博物館所蔵

[伊東マンショ][メスキータ神父]の肖像画・完全手彩色による複製画
長崎歴史博物館所蔵 
(2007.1-3) 関連新聞記事へ
バルサム・ピアノ(2001.9〜)
コーパル樹脂塗布
第一層目
バルサム塗布

依頼者の希望で
何故か般若心経を埋め込むことになる
バルサム塗布
仕上げ層

塗布面の確認
合成樹脂とは異なる
美しい光沢が伝わる

解説−T  06.05.17

 硬いニス(Manila Copal,soluble in denatured alcohol 系)の上に軟らかいバルサム(松脂=Silver Fir Turpentine so-called Strasbourg Turpentine)を数層塗布。

 これは油彩画技法における「不透明な色相の上に透明色を・・[※1])」。日本画においては「微粒子でうどん粉のように粉っぽい顔料(不透明)で描いた色相の上に、粒子の粗いざらざらした岩絵具を塗布することで透明感を・・」、それぞれの絵画技法の定石〜特色を、ピアノの心臓部である響板に取り入れる試みでもであった。
弾かれた弦の振動は「適度な厚みの柔らかい透層(バルサムニス)を透過して、硬い最下層(硬いコーパルニス)に反射して再び透層を通過して時空に広がる」。
「音色からはバルサムの心地よい香も一緒に耳まで届けてくれる」。実際に塗る前からそんな気がした。

 復元製作はザウター275コンサートやC.ベヒシュタインD280に囲まれた某ピアノ工房で行われた。

 ある時代からピアノの工業化(品質の一定化〜安定化)が進むにつれて、ピアノの心臓部である響板も天然樹脂から合成樹脂へ、手塗りから機械塗りへと移り変わった。「周辺に置かれた数千万円する名機も、すべて機械塗りによる合成樹脂」と説明されると、ピアノが弾ける訳でもないのに「欲しくない」、何故かとてもがっかりしたのが印象に残った。

 最初にバルサムピアノの話しが持ちかけられた時に、「自分のピアノだから常識にとらわれず自由な発想で作りたい。特に響板は天然樹脂(松脂)の手塗りにこだわりたい」と、音楽家の金久氏が言った。話しなかば頭によぎったことがある。
(A)名画の複製技術=通常のペンティング
(B)仕上がった絵のワニス塗布
(C)水性白色地塗り塗料の塗布。
難易度の高い順から並べ替えると、(B)(C)(A)になる。持ち込まれた話しは、ブラッシュワーク中、最高峰の技術を要するニス塗りだ。それに加えて「完成品のピアノを、ある程度まで解体した状態から行う」と彼は言った。塗布面には側板のほか駒やボルトといった障害物が点在していると言うことだった。

 絵のニス塗りでは、十二〜十五号以上のサイズになるとワンストロークで一気に塗りきることが出来なくなる。半分仕上げてから、あとの半分を継ぎ目が残らないように均一に仕上げなければならない。光の反射作用と刷毛(寒い地域で育った豚毛[※2])から伝わってくる微妙なニュアンスが、数センチエリアのニスの厚みや粘性状態を知る重要な手掛かりになり、瞬時の操作調整の司令塔となる。失敗すればすべてのニスを除去したら、半年以上、乾燥させてから、もう一度やり直すことになる。千円の絵も一千万円の絵も、技術と責任感には、まったく変わりない。三百点近い塗布経験の中で失敗例は一度もないが、作業現場の清掃、道具の埃を除去、ニスを処方する段階から緊張感が周囲に漂うという。この緊張感が集中力に変わる頃に塗り始めるのが常である。

 障害物がない四角い画面ならまだしも、数箇所の突起物と湾曲した響板、さらには絵画の場合は、そのままでは使えない蜂蜜のような粘性の松脂を塗るのである。危険極まりない行為だった。
古い時代のイタリアのやり方「流し込み塗装」を、ふと思い出した。この方法を初めて知ったときは「手抜き工事・逃げの技法」と直感した。しかしこの方法が最も安全なやり方だ。と一瞬、判断するも、再び我に返れば、「塗るのが塗師の仕事。完全手塗りで松脂を塗ろう」と決めた。

 以前、(独)シュミンケ社製品の日本語版カタログを作成する際に、樹脂成分を含む油絵具(オイルカラー)をヘッセ社長の了解を得て[レジン・オイルカラー]と初めて命名したことがある。
油彩画の堅牢性など、ほとんど話題にもされなかった時代から「堅牢性を高める意味でも絵具には樹脂を混入すべき」と提唱してきた。「油絵は顔料と油だけらよるものではなく、そこに樹脂を加えた“樹脂油彩絵具”による技法」ということを広く知ってもらうには、良い機会と思ってカタログ作りに協力した。
自分で言うのも何だが、樹脂、特樹脂思い入れは、これまでの行動を振り返れば確かに普通じゃない。

フランス・ベルギー・オーストリア周辺で作られたバルサムピアノを探す。
 幻の存在だったストラスブルグ・ターペンタイン・・。
  漆技法と油彩画、ピアノニスの関係・・。

次号につづく
ページの上へ▲
※1 経験者ならば周知のことだろうが、油彩画の場合、「不透明な上に透明色を・・」に加えて「艶の無い色相の上に艶を」が平行に実践される。
例えば白い画学紙(不透明で艶なし)と厚い透明ガラス板(透明で光沢)に、ルビーやサファイアのような薄いガラス板(透明・艶あり)を置いて光を当てた場合、どちらのほうが明るく輝くだろうか。ルビーとサファイアの明るい透明感を呈す画学紙と比較したら、透明ガラスは暗くて鈍い調子になるだろう。
 実際の技法では、不透明なバーミリオンで肉付けしたら、赤いレーキ系の透明色を画用液で溶いて施す方法がある。この場合も、最初は油分を極力少なくし、逆に後半はかなり意識する。絵をやらない人にも解りやすい例がある。例えば、家具や木製楽器を忠実に表現するには、「モチーフと同じ作り方」を実践するのが一番である。
T.下絵時はニスを塗る前の白木の状態を準備(不透明で明るい)。
U.モチーフがコーパル系のニスならば、バーントシエナ。マホガニー調ならば、それにレーキ系を加えて着色した油(家具用のニスと同種)を、モチーフが塗られたのと同じように数層、塗り重ねればよい。
必然的に本物そっくりになる。また、粒子を使い分ける日本画のやり方は、光の屈折率を活用した例。油彩画の場合、基底材も含めた多重層反射による屈折率と私は考える。

※2 ニス塗り用の刷毛は、「毛折れや抜け毛がゼロに近いもの=ロシアなど寒い地方で育った豚の背中から選ばれた原毛は、保湿(油)力・柔軟性・堅牢性に長けている。ニスの含みが良いもの=百パーセントに近い密度で、毛先が2本から3本の枝毛状になっているもの・・」が良い。塗布最中の折れ毛は、あってはならないし、腰が有りすぎても無さ過ぎても困る。個人的にはフランス製のものを十代から愛用している。高価だが信頼性も高いし上手に使えば一生、使えそうだ。
ページの上へ▲



Copyright (C) 2001-2005 Takahashi method Institute of art. All rights reserved.
高橋メソッド・中津美術研究所