トップページ商品カテゴリ運営者の紹介新着情報お問い合わせ会員登録カートの中



店主がご案内する

技法の森

第一章 大切な筆の洗い方



■筆を駄目にしてしまいました

「筆はできるだけ高いものが良い」と、師匠から指導された知人の女流画家は、コリンスキーやセーブルの筆を毎月数万円〜数十万円購入。仕事場に伺うと、大きな空き缶に筆がビッシリ。水が入ったブリキのバケツにも。筆先は、ほとんどが固まっている。「これじゃ高級筆の使い捨ですね」。理由を聞けば、「使った後は洗ってはいけない」と指導されたとのこと。

教室の生徒さんから深夜に電話が・・。「昨日、一度しか使っていないのに、筆先がすべてバサバサになって使えなくなりました。一か月分のバイト代がパーに・・」。まだ油彩画課程に入っていない生徒さんが、教室の先輩のやり方を参考にして、はじめて油彩画を描いたときの話です。

ふたつとも本当にあった話です。筆は価格ではなく用途で選ぶべきです。高い筆を勧められた方は、太いチューブから搾り出した絵具をナイフで盛り付けたり、筆跡を活かして厚塗りする描き方ですので、豚毛のように腰のある筆が適しています。価格もコリンスキーと比較したら遥かに廉価です。

また、古典技法だから、軟毛質が良いとも決めつけられません。レンブラントの技法でも、大作になれば、硬毛質の筆のみならずナイフも利用します。夜景の副隊長のボタンは、生クリームを搾り出すような道具を使ったかのように、厚く盛り上げられたりもしています。

どのような道具にしても、目的に適したものを選びたいものです。



[原因と対策]

「パレットを洗ってはいけない」という話は聞いたことがありますが、「筆を洗ってはいけない」というのは、はじめてです。絵具や画用液を含んだ筆を放置しておけば、固まって使えなくなるのは当然のことです。「洗ってはいけない」理由をぜひ聞きたいものです。
使用後の筆は、毎回綺麗に洗ってあげてください。

「やっとの思いで買った筆を、一度で駄目にしてしまった」。
ふたつの理由があります。「高橋メソッドの教室で、油彩画の基礎知識を学ぶ前に、こっそりやってしまったこと」「筆の洗い方を知らなかったこと(筆洗油と石鹸を使用)」。
当時の筆洗油、もしくは使用した筆洗油が、軟毛質には刺激が強すぎたのかもしれません。
最近の筆洗油が、筆にどのような影響を与えるかについては確認していませんが、筆洗いに使う揮発油として最も適しているものは、描画用の「ホワイトスピリット(ペトロール)」です。様々な化学顔料に対しても安定していることから、筆にも優しいものと考えます。

描画用の揮発油には、ターペンタイン(テレビン)もあります。これを筆洗いに使用する方もいらっしゃるようですが、蒸発すれば跡形もなくなるホワイトスピリットに対し、ターペンタインは、松脂(ヤニ)分が残ります。揮発性を失った、いわば腐ったヤニ分は、なかなか乾燥しない、もしくは全く乾燥しなくなります。絵具層にとって、このヤニ分は、脅威の存在です。また、筆の根元にヤニ分が溜まることによって、筆先がまとまらなくなる恐れもあります。

「揮発油で洗浄してから石鹸で洗う」ことについてですが、俵屋工房では、その必要性はないと考えます。
以前に、コリンスキーやセーブルの筆を、石鹸で洗った時期もありましたが、使用する石鹸と洗い方には、そうとう神経を使います。どうしても石鹸で洗いたい方は、ロモコートのような弱酸性で保湿性のある石鹸を使ってください。洗浄時は、石鹸を付けた二本の指で、烏口から、毛先の方向へと摘み出すようにするか、手の平をつかって、筆先と烏口の角度を極力つけないように(筆を寝かすように)洗います。筆先は決して横に動かさないで、縦方向に引くようにして洗います。特にアイラインやまつ毛といった細部用の丸筆は、「次回も筆先が良くまとまってくれるように」祈るように洗います。

「市販の筆洗油は、絶対に使ってはいけないの?」
そういうわけではありません。俵屋工房でも豚毛の刷毛や絵具練りの道具の洗浄などで、しっかりお世話になっていますし、取扱い製品のひとつでもあります。ただし、軟毛質の筆の洗浄には使用しません。
人の髪の毛と同様、軟毛質のデリケートな筆には、できるだけ上質の揮発油で洗ってあげたいという単純な思いからです。


[軟毛質の筆の洗い方]

筆の洗い方。意外と知られていないようです。ベテランの方も美大出の方も、「高橋メソッド(中津美術研究所)の筆の洗い方は、はじめて」という方が、ほとんどです。
金属製のスノコが付いた筆洗器は使いませんからので、筆先を傷める心配はありません。洗浄時に出た汚れた揮発油は、すべて油皿やパレットの洗浄に使いきりますので、まったく無駄が出ません。慣れれば7-8本の筆ならば、ティッシュペーパーの使用枚数も5-6枚で済みます。

準備するものは、ホワイトスピリット(ペトロール)と容器。

石油の匂いが苦手な方でも、海外のホワイトスピリットは、大丈夫という方もいらっしゃいます。
日本製は、そのままでも使えそうですが、俵屋工房では、使用前に白土ろ過しています。科学的な根拠はありませんが、筆へのあたりと香りが、まろやかになります。

容器は、一般的に使われている筆洗器ではなく、倒れにくくて丈夫な瓶を使います。
容量は50ml程度、口径は18〜20ミリ以上あれば大丈夫です。
*大きな筆を常用される方は、適宜ご調整ください。

それでは、コリンスキーやセーブルなどの[筆の洗い方]について、ご案内いたしましょう。


主な項目
1.筆洗器の準備
2.パレットの絵具をナイフで除去
3.本日お世話になった筆
4.初回の洗浄
5.揮発油を含ませて最初の洗浄
6.油皿で汚れを落す
7.皿に溜まった油を利用しての仮洗い
8.ティッシュで汚れを取る
9.筆の置き場所
10.皿の汚れを取る


11.皿の仕上げ拭き
12.二回目の洗浄
13.最初は太い筆から
14.溜まった油で細い筆を
15.パレットを洗浄
16.筆の仕上げ洗い
17.硬毛質と軟毛質の扱い方
18.パレットの洗浄
19.仕上げ洗いが終わったら


大切な筆の洗い方



1.筆洗器の準備
写真の瓶は、60mlの規格瓶です。これにホワイトスピリットを7-8文目入れます。容器のサイズは、油を効率的に使い切りたいので、これくらいがのサイズが理想です。

写真では、ニュートン社のホワイトスピリットですが、そのほかルフラン社の75ml入りの瓶を、そのまま使用することもできます。持ち運びされる方は、こちらの方が漏れにくいかもしれません。逆に規格瓶を持ち運びされる場合は、漏れ防止のために中栓をつけた方がよいでしょう。

揮発油は、少なくなったら新しいものを足します。何十回も使用しているうちに、少量ですが溶けた顔料が沈殿してきますので、気になさる方は、仕上げ用にもう一本用意されるとよいでしょう。

工房では、だいたい年に一回、瓶を洗浄します。
瓶に沈殿した僅かな顔料を残して、上澄みだけをビーカーなどの容器に移します。それまで使用した瓶の汚れを綺麗にしてから、先ほどの上澄みを瓶に戻して完了です。

*写真の規格瓶は、俵屋工房でも取扱っていますので、ついでの際にでもご利用ください。
*10月にブロックス社のホワイトスピリットが入荷しますので、国産クラスの価格に出来そうでしたら、筆洗油として発売いたします。




2.パレットの絵具をナイフで除去
パレットナイフよりもペンティングナイフの方が便利です。ただし、ナイフ全体の刃先にご注意ください。ティッシュなどで絵具を拭い取るときに、触れる場所によっては、手を切る場合があります。

ここでは、パレットをピカピカにする必要はありません。次の[3]の画像程度で大丈夫です。


*初心者の方は、残った絵具で混色の練習やテストをされることをお勧めします。

例えば、ウルトラマリンブルー[UB]で緑を作ってみます。[UB+イエローオーカー][UB+カドミウムイエロー][UB+インディアンイエロー+白〜黄]などを試してみてください。
「あっ、ロイスダールの水の色だ」「これはコローの緑」「新緑にはこの黄色が冴える」と、色々な発見があるはずです。




3.本日お世話になった筆


俵屋工房製・コリンスキーの丸筆[黒丸]0号と2号。
俵屋工房製・試作品のイタチの平筆[冴]2号。

フランス製の[8772]の2号・4号・12号の平筆。
先がまとまらなくなったセーブル[862]の6号と8号の二本は、ぼかし用に。

今年開発した俵屋工房の筆は、在庫切れ。これがあれば、仕事がとても捗るのですが、発注してからもう数ヶ月が・・。世界トップクラスの職人さんたちに、催促することは控えております。前回も、諦めはじめた頃に届きました。早く出来上がることを熊野に向かって祈る毎日です。

*[冴]は市販決定。これまでにない優れた筆の誕生です。 
*本日のお仕事は、三歳のお嬢様の肖像画。6月に右手が全治3ヶ月の重症に襲われてから、納期が伸びてしまった作品です。ご依頼者さまには大変ご迷惑をお掛けいたしました。お陰さまで、右手の方は、ほぼ快復いたしました。現在は、絵が描ける喜び共にお仕事させて頂いております。

   
左から下絵・本制作-機銑
*ブロックスの絵具には、何ともいえない品があります。最高です。




4.初回の洗浄

ティッシュペーパーで、筆先の絵具を取ります。完全に取る必要はありません。
軟毛質の細筆は、力を入れずに優しくやってあげて下さい。
洗う順番は、太い筆から細い筆へと進めるのがコツです。



5.揮発油を含ませて最初の洗浄

描画時に使った油皿を準備します。油が残っていたら拭き取っておきます。皿を使わない方は、パレットの上で、同じ作業を行ってください。

筆は瓶の底でバシャバシャしません。毛先部分だけを浸す程度です。


6.油皿で汚れを落す


写真の筆は、8772のマングース。毛先が磨り減って豚毛のようになった状態。豚毛や毛先が硬くなった筆の場合、このように垂直に近い角度で、根元の汚れを押し出すようにしても大丈夫ですが、直径2−3ミリの細筆の場合は、烏口で根元の毛を圧迫することで毛を傷めます。このような筆は、できるだけ角度をつけずに寝かせるようにして汚れを取ってください。
*[14]の写真をご参照ください。




7.皿に溜まった油を利用しての仮洗い


太い筆から洗い始めると、2-3本で皿に油が溜まります。細い筆は、これを使って仮洗いします。


8.ティッシュで汚れを取る

皿である程度の汚れが取れたら、ティッシュで軽く汚れを拭い取ります。最初は[軽く]がコツです。

*ティッシュのほか、古着などの布切れなどでも大丈夫です。




9.筆の置き場所


ひとつの工程が終わったら、筆の置き場所を変えましょう。
最初に筆立てに立てていた筆は、今度は寝かせて置いています。こうすることで作業上の区別が付きやすくなります。




10.皿の汚れを取る


筆を拭ったテッシュで皿をきれいにします。


11.皿の仕上げ拭き

新しいティッシュで仕上げたら、本日のお皿のお勤めは終了です。
*現在、俵屋工房のメジュームならびにブロックス・ソリューションのための油皿を製作しています。




12.二回目の洗浄


ここからは、[5]から[8]までの作業を繰り返します。ただし、前回まで皿で行ったことを、今度はパレットの上で行います。最初に皿を使ったのは、皿を洗浄するためです。今度は筆と共に、パレットを洗浄します。


13.最初は太い筆から

パレットの汚れていない部分を利用します。全体が汚れていたら、皿を洗うときにでも、予め綺麗な場所を作っておいてください。


14.溜まった油で細い筆を

一回目の洗浄で毛先の汚れは、だいぶ取れますが、根元には、まだたくさん絵具が残っています。

この筆はイタチの平筆[冴]ですので、軽く押し出すようにして根元の汚れを外に誘導します。この作業は、平筆の場合、片面ごとに5−6回ずつ行ったら、ティッシュで根元から毛先に向けて汚れを吸い取ります。そして、この作業を2-3回繰り返します。実際に何回行うかは、汚れ具合を見て判断します。
なお、写真では見づらいですが、パレット上の筆先周辺には、揮発油が溜まっています。その範囲内で上記の作業を行います。



15.パレットを洗浄


筆を拭った後のティッシュで、パレット上に残った揮発油を利用して汚れを拭き取ります。この時点では、仮拭き程度で大丈夫です。


16.筆の仕上げ洗い


二度目の洗浄では、まだ完全ではありません。通常は、[11]−[14]までの作業を、あと一〜三度ほど繰り返します。
洗う回数は、汚れの状態によって異なります。目安としては、「これ以上、綺麗にならない」です。




17.硬毛質と軟毛質の扱い方

豚毛やマングースなどの太目の筆は、揮発油に浸した後に、このような角度で、根元の汚れやメジュームの樹脂分を、しっかり搾り出します。ティッシュを使うときも、根元を指でしっかり押し当てて汚れを搾り取ります。



この筆は、コリンスキーの丸筆[黒丸]です。揮発油に浸したら、烏口(金具の先端)の角を、パレットに軽く叩きつけるようにして汚れを外側に誘導します。金属製の烏口は、毛にとっては刃物のようなものです。この作業は、烏口で筆の根元を傷つけない角度で行ってください。
*丸筆の細筆は、根元の汚れをしっかり除去しておかないと、筆先はすぐに、まとまり難くなるか、まとまらなくなります。筆を長持ちさせるためにも念入りに。



仕上げ洗いが終わったら、筆の柄の部分の汚れを拭き取ります。綺麗になると「キュキュ」と小気味良い音を発します。毎回、この音を目指して拭きますが、意外と鳴る確率は低いです。



18.パレットの洗浄

仕上げ洗いが終わったあとのパレットは、一見、綺麗に見えますが、ティッシュで拭うと、まだこんな感じです。





汚れがひどい場合は、ティッシュに揮発油を含ませて、汚れがなくなるまで綺麗に拭いてあげてください。


19.仕上げ洗いが終わったら

最後にその筆の本来あるべき姿にカタチを整えて、次の制作に備えます。

写真は、黒丸の0号と2号。すでに5−6回使用していますが、毛先の減りもなく、毛先のまとまりも問題ありません。
四半世紀以上お世話になっていたヨーロッパ製品は、物によっては初回から、良いものでも5-6回使うと、先(寿命)が見えてくるのが近年の状況でした。俵屋工房が自社製品の開発に着手した所以でもあります。




[19]のつつき

この筆は、イタチの平筆です。針先のような細い線とアイライン周辺の処理を行うために設計した「冴」です。


筆に関する開発物語なども、機会を作ってテーマにしたいと思っております。
さて、筆の洗い方について、ご案内いたしましたが、うまく伝わりましたでしょうか。
活字で説明すると、どうしても複雑そうに見えてしまいますが、要は、「毛先を傷めないように、
できるだけ綺麗に洗浄する」というのが、最大のポイントです。

ご不明な点や、ご質問がございましたら、お気軽にお問合せください。

解説で使用しているパレットは、建材用の床材です。適度な重さがあるので、ワゴンの上でもとても
安定した使い心地です。セラミック製の強化タイルですので、絵具練りにもご使用いただけます。

一枚・30×30センチ/1,000円(梱包料+200円)
一枚・40×40センチ/2,000円(梱包料+400円)

ご購入を ご希望の方は、お手数ですがメールでお申込みください。

*二辺の角は面取りしていますが、あとの二辺は、カットしたままの状態です。
使用上の不都合は、まったくございませんが、気になさる方は、有料にて面取り加工いたしますので、
お申し付けください。



v


      

会社概要 | 特定商取引に基づく表示 | 個人情報保護のための行動指針

Copyright (C) 2000-2008 Tawaraya Kobo KG All Rights Reserved.